俺様先生と秘密の授業【完全版】


「……これでも、大分地味に来たつもりだけど?」

 あたしに殴られた鼻をさすりながら、兄貴が、涙目で言った。

 


 だってっ!

 ファミレスに入ったとたん。

「愛莉~~っ!」 

 なんて、兄貴が飛びついて来るんだもんっ!

 普段、ほとんど笑わずに。

 不機嫌そうな顔をしていることの多い、兄貴のへろへろな様子に驚いたのか。

 今一番兄貴に近いところにいる、吉住(よしずみ)さん以外。

 一緒についてきた人たちは、皆目と口をまん丸に開いてびっくりしている。

 それがあんまり恥ずかしくって。

 思わず伸びたゲンコツに、兄貴が激突したんだ。

 ばきっ!

 なんて、景気良くなった、あたしの無事な方の手は、兄貴の鼻に見事に命中し。

 兄貴は、情けなくも、一瞬床に座り込んだ。

「だ……大丈夫?」

「あ、愛莉のパンチなら、平気。
 ……痛いけど」

 身内に、とは言え。

 自分たちのボスが殴られたんだ。

 一瞬、ヘンな緊張感が走ったのを、兄貴はなんでもないから、と制してからぶつぶつ小声で言った。

「ケガしたって聞いてさ。
 ソッコー来たら大騒ぎになってるし。
 ……大好きな愛莉ちゃんには、殴られるし、僕、悲しい」