「もう、ふざけないでよっ!
 あたし、本当に、困ってるのに……!」

 もう、帰るっ!

 本気で腹を立てて、来たばかりの屋上から背を向けようとしたあたしを。

 伊井田さんがさっきよりは真面目な顔をして、止めた。

「判ったわよ、ちゃんと聞いてあげるからさ。
 ……それよりカッキーって。
 ただ、暗いヤツだと思ってたけど……実は結構、性格激しかったのね~~
 なんか複雑な家庭事情ってのもあるみたいだし。
 わたし、驚いちゃった」
 
「……!」

「だから。睨まないでってば!
 怖いよ? カッキー」

「~~~」

 ど~~すりゃ、いいのよっ!

 あたし、思わず大きくため息をついて、フェンスによりかかると、空を眺めた。

 もうすぐ夏休みの青空は、とてもきれいすぎて、目にしみる。

「カッキー……泣いてるの?」

「うるさいな」

 つんけんと返したあたしの言葉に、伊井田さんは肩をすくめて言った。

「結局、カッキーの一番好きなヒトって、誰?」

「え?」

 ぽん、と直斗の顔が一瞬浮かんで、すぐ消えた。

 ありえないし。

「……岸君」

「本当に?」

「う……ん」