……どうして。


 こんな風に、なっちゃったんだろう。

 食堂を出て行く兄貴を見送って、あたし。

 ……涙が出て来た。

 兄貴のことが、とっても大好きだった。

 うんと小さな、子供のころ。

 兄貴が、あたしがいたから、寂しくなかったって言っていたけれど。

 あたしだって、シングル・マザーの母さんが、働きに出ている間、兄貴と一緒に居られたから。

 ひとりぼっちじゃなかったんだ。

 兄貴に続いて水野小路に、呼ばれたばかりの頃だって。

 屋敷の中で、お父さんの部下の何人かに、こっそり手を出されかけた時も。

 兄貴が、すぐに気がついて、怒り、睨んでくれたから。

 あたしに無理なことをしよう、なんて考えるヒトは、一人もいなくなったのに。

 そして……他にも。

 他にも。

 子供のころの楽しい思い出は、いつも兄貴と一緒で、二人。

 まるで、捨てられた子猫同士みたいに。

 支えあって、じゃれあって暮らしていたのに。


 どうして、こんな風になってしまったのか。