ばちんっ!



「……つっ……!」

 その。

 思ったより大きな音と。

 そして。

 鋭く走ったらしい、痛みに。

 兄貴は、ようやく我に返った。

 怯えてボロボロになった、あたしと。

 食器の散乱した食堂の様子に、低く呻いて、唇を噛む。

「……ごめん、愛莉。
 僕は……」

 ……こんなことをするつもりじゃなかったんだ、と。

 言いたかったのか……どうなのか。

 例え、いつもの兄貴に戻っても。

 近づいて来る彼から反射的に逃げようとして、下がったあたしに。

 兄貴は、悲しそうに首を振る。

 そして、自分の着ていた上着を素早く脱いであたしに投げると、食堂を出て行った。

「ごめんね。
 僕も、愛莉のそんな顔だけは絶対させないつもりだったのに……
 今夜は、もう。
 お前の隣の部屋に、帰って眠る自信がない。
 ……そこらを、単車で走って来る……」