そんな、吉住さんの言葉に、岸君は目を伏せた。

 え……?

 死って……ウソ。

 本当に?

 ……そんな……

 信じられない言葉で、目を見開いたあたしに。

 岸君は口元で苦く笑った。

「ふん。
 あんな頑丈な親父が、死ぬもんですか。
 生きているわよ。
 ……未だに、病院通いはしてるけど」

 言って、岸君は額に手を当てた。

「……でも、まさか。
 人間って、あんなに簡単に壊れるモノだったなんて、知らなかったの」

 中学入学と同時に、自分は女の子じゃないからって。

 格闘技を習い始めたものの。

 お父さんを殴ったその日まで、試合以外に拳を振り上げず。

 しかも、試合でさえ、寸止めで、実際に人を殴ったことがなかったって、岸君は言った。

 なのに。

 たった一撃で、お父さんを、相当ヒドく……深く、傷つけてしまったらしい。

 それは、尾ひれがついたとは言え、殴った相手が死んでしまったって噂になるほど。

「私、自分の拳が、骨を砕く音って初めて聞いたけど……もう、二度と聞きたくないや」

 岸君の声はとても悲しそうで。

 聞いていると、心がきゅん、と痛む。