あたし。
知らなかった。
今まで沈黙の狼と天竜組とが、大きな事故をはさんで、確執を持っていることぐらいで。
こんな、事故の原因は誰も話してくれなかったから。
直斗が、そんな想いを抱えて、保健室の先生になっていたなんて……思ってもみなかった。
元々族に居る時から、バイクの運転は上手くてもケンカは苦手だったから。
事故をまのあたりにして、怖くなって引退しちゃったのかな……なんて。
直斗のことを情けないヤツ、って思ってたのに。
辛かったんだね。
悲しかったんだね?
それでも、前に進もうとしたんだね?
仲の良かった兄貴と、チームメイトから離れて、たった一人で、別の道へ歩いて行こう、と思った程に。
ちゃんと頭をあげて、進んだんだ。
あたし。
直斗のことなら何でも判ってるって思ってたのに。
そんなのウソだ。
あたし、直斗の事なんて何も知らなかった。
そして。
兄貴のことも……。
すごく、仲良くて、一つ屋根の下、どころか。
部屋だってこんなに近くに……隣にいるのに。



