俺様先生と秘密の授業【完全版】

 兄貴は、改めて直斗の胸倉を掴むと、今度は、壁に押し付けた。

「早紀は、四年前。
 名目上は、オレの女だったのを、お前が横取りして自分の女にした事になってたな」

「名目上、じゃない。
 事実だ。
 ……二度も続けて。
 お前の愛した女を横取りするわけには、いかねぇだろう?」

「だから、愛莉をあきらめるって?
 クソったれ!
 ウソだ!
 お前は、最初から今まで愛莉しか見てなかったのに!
 オレは、自分の空っぽの腕が、苦しくて……苦しくて。
 早紀に、逃げるような愛をぶつけていたんだ。
 本当はオレが、不誠実な事を早紀に見透かされ、一方的に振られただけだろ?」

 兄貴の言葉に、直斗は、目を伏せた。

「早紀が、何を考えていたか、今となっては、判らねぇ。
 四年前の天竜組との勝負で、早紀は、狼側の幹部として、出て……死んだ」

「……」

「俺だって、まったく早紀の事で心が動かなかったわけじゃない。
 お前との仲の話をずっと聞いていて……同情した。
 不用意な優しさは、凶器になるんだ。
 運命の刻(とき)の直前まで、早紀は、迷って、泣いてた。
 ……それが、いつもは正確なはずの。
 早紀の単車の運転のミスを誘ったんだと、俺は、思ってる」