俺様先生と秘密の授業【完全版】

 あたしに気を使って、なのか。

 兄貴の声は、小さく、ささやくほどしかなかった。

 だけども、鋭く。

 切ないほど悲しげな声だった。

 それは、まるで、今にも泣きそうな、ほどに……!

 あたし。

 今まで、兄貴がそんな風に、あたしを見てたなんて、知らなかった。

 いつから、兄貴は、あたしを想ってくれてたんだろう?

 複雑な事情を抱えてはいたけれど。

 ウチの母親達は、あたしの目には、とても仲良く見えて。

 家が近所なことも手伝って、しょっちゅうお互いの家を行き来してたから。

 水野小路なんて、名前を知らない小さな時から、従兄の俊介兄貴を『お兄ちゃん』って呼んでたのに。

 やがて。

 兄貴が、先に水野小路家に引き取られる事になり。

 なんだか、そこが。

 住んでいた街からは遠くなかったけれど。

 簡単に遊びに行けないほど怖い家だって聞いて、泣いた覚えがある。

 結局、あたしの方も、シングルマザーだった母親が死んで。

 身よりのなくなったあたしを、水野小路が引き取った。

 以来、兄貴と一緒に住むことになったんだけど……

 兄貴のシスコンぶりは、程度の差はあっても前からだったから。

 兄貴の気持ちなんて、あたし、全く知らなかった。