「「愛莉」」

「「愛莉さん」」



 不機嫌そうな、兄貴の。

 不信そうな、吉住さんの。

 心配そうな、直斗の。

 そして。

 嬉しそうな、岸君の。

 あたしを呼ぶ声が、重なった。

 けれども、あたしは。

 わずかな時間で、すべてが、ひっくり返るようなウワサ話よりも。

 あたし自身が、見て、聞いて、感じたコトを優先、するんだもん!

 岸君は。

 悪いヤツじゃない。

 あたしのために、勇気を出して。

 曲がった背筋を伸ばして。

 ぼさぼさの前髪を上げて。

 前に、進んで行こうと、してくれるヒトだ。


 ……あたしは、そう、信じる。



「兄貴は、後は、あたしの気持ち一つで決めて、良いって言ったよね?」

「……確かに、言ったが、それは」

「じゃ、決まり」

 岸君のウワサを知らなかったから、却下、と続きそうな兄貴の言葉をあたし、思い切り良く切り捨てた。

「あたし、岸君と、付き合ってみるから。
 兄貴も、直斗も、吉住さんも。
 ……他の狼達も。
 誰もあたしたちの邪魔をしないでね?
 ……邪魔したら、あたし、本気で、怒るから。
 良いわね……!?」