毎朝。

 震える手に、鞄(かばん)を抱きしめて。

 こっそり、自分の席につく、岸君。

 それでも、クラスメートに見つかって。

 毎日毎日、いじめられているのは、岸君の方だ。

 ヒトを傷つける、なんてウワサは、怖いけど。

 そんなことが、出来るなら。

 昨日みたいに、溺れる寸前まで、バケツの水の中に突っ込まれるなんて。

 酷いコトをされたら、絶対、自分で反撃するはずよね?

 だいぶ遅れた、とは言っても。

 直斗についてこれるほど、バイクの運転が上手だったのは、驚いたけど。

 実際に見た、特技の『それ』の外に。

 岸君が、何か出来るとは、思えなかった。

 ……思いたくなかった。

 天竜組のヒトにちらりと見せた肉食獣みたいな表情(かお)ではなく。

 お昼に、裏庭で、一緒にご飯を食べた、優しい岸君が。

 あたしのことを、好き、って告白してくれた岸君が『真実』(ほんとう)だと、信じたかった。

 直斗と、兄貴と、岸君と。

 四十人の狼達の前で。

 あたしは、勇気を出して、口を開いた。




「あたしは、岸君を信じるから」