俺様先生と秘密の授業【完全版】

 それでは、愛莉が良ければ、試しに付き合ってみれば良い、と。

 宣言しようとした兄貴の言葉を遮ったヒトがいた。

「待ってください」と。

 この場で唯一、岸君に反対したのは。

 直斗……ではなく。

 兄貴のすぐ側に控え、一部始終を黙って見ていた、吉住さんだった。

「その男は、愛莉さんにふさわしくありません。
 絶対に」

「……なんだ、吉住。
 お前まで、愛莉を狙うのか?」

 かなり、皮肉げに方眉を上げる兄貴に、吉住さんは、首を振った。

「愛莉さんには、ぜひ、俺も。
 一番好きな方と幸せになってほしいです。
 ……しかし、それがこの男だと言うのなら、許せません」

「吉住」

「……俺は、こいつの正体を知ってます。
 もし、こいつの名が岸 疾風と言うなら……
 俺たちの敵の天竜組の人間です」

「確かに、天竜組に縁はあるけれども。
 オレ自身は、どこのチームにも所属していない……!」

 反論する岸君に、吉住さんは、目を細めた。

「ああ。
 確かに、な。
 お前は、誰にも縛られず、いつも一人で走ると聞いている。
 しかも、単車に乗せれば、かなり腕が良く速いらしいな。
 ……それでも、お前は、敵なんだ」