俺様先生と秘密の授業【完全版】

 兄貴は、そこで、一区切りして、改めて言った。

「お前が、ロクでもない男だったり。
 愛莉を泣かしたりすれば。
 オレと、狼全部が、お前を狙う事になる」

「はい」

 それは、もちろん承知、だと。

 はっきり頷く岸君に。

 兄貴は、複雑な顔のまま、かすかに頷いた。

 そして、今度は、直斗の方を見た。

「……直斗。
 お前からは、何か言う事はないか?」

 兄貴の言葉に、直斗の返答は、一瞬遅れた。

 でも。

 もしかして……直斗が。

 さっきみたいに、岸君に、あたしを渡さない、と言ってくれるのかな?

 っていう、希望は、あっさり砕けて消えた。

「俺は、俊介が認めるのなら、かまわない」

 なんて。

 直斗は、ほとんど表情無く、淡々と返答する。

「直斗……」

 また、出て来そうになった涙を手で拭いて。

 あたし、もう、直斗を忘れてしまおう、と思った。

 岸君は、兄貴と狼の前で、はっきりと、あたしを好きって言ってくれた。

 絶対に味方ではない。

 大勢が自分を囲むこの状況が、怖く無いワケは無いだろうに。

 あたしのために、勇気を出してくれたんだ。

 だけども。