俺様先生と秘密の授業【完全版】

 その声を聞いて。

 直斗は黙って、あたしの手をぎゅっと握った。

 それは。

 兄貴の怒りを予測して?

 ううん。

 そんな風には見えなかった。

 あたしから視線を外し、ふと、遠くを見るように、岸君を眺めてた。

 それが。

 うらやましそうに、見えるのは……

 ……あたしの見間違い、なのかな……?

 ……ねぇ、直斗……?

 なんて。

 あたし、声をかけられなかった。

 全く同じく、時間が止まったように、氷ついていたのは。

 直斗だけじゃなかったから。

 岸君に宣言された兄貴もまた。

 複雑な表情で一瞬、全ての機能が止まったロボットみたいに、止まった。

 だけども、やがて。

 気を取り直して、囁いた。

「……オレは、愛莉の兄として。
 愛莉の幸せだけを願っている」

 兄貴は、予想に反して怒るワケでもなく。

 ただ、動揺を隠しているように、断固として言葉を綴る。

「初対面のお前が、愛莉にふさわしい男かは、付き合ってみないと判らないが。
 殴られても、動じない所を見ると。
 オレの中での最低条件はクリアしているから。
 後は愛莉の気持ちを一番に尊重したい……が、しかし」