俺様先生と秘密の授業【完全版】

 岸君の視線を受けて、兄貴が口の端で、笑う。

「女みたいに、軟弱な顔をしている割には、良い根性してるじゃないか。
 殴られても、オレをきちんと見たヤツは。
 直斗と吉住以来、お前で三人目だ」

「……それは、どうも」

「しかも、本当は。
 避けようと思えば、避けられたんじゃないか?
 責任を感じて、一発ぐらいは、オレに殴られる気になったのか?」

「……それは、買いかぶり過ぎです」

「……ふん」

 本気で殴ってなくても、受け身を取っても、痛いモノは痛いらしい。

 無意識に、殴られた所を撫でながら。

 それでも、負けて無い岸君に。

 兄貴は、ふ……とさっきよりもなお。

 上機嫌な顔で、言った。

「……愛莉が、ケガをした時のいきさつを聞こうか」

 ……あれ?

 本当だ。

 なんだか、空気が、和んでる。

 ……本当に、アレが挨拶だとしたら……

 やっぱり、あたしには、判らない世界だ……な。

 なんて、岸君が、これ以上、殴られそうにはなく、気が抜けたのかな……?

 くらり、と世界が回って、思わず、足元がふらついた。