……がしっ!
あたしが止めるのも、直斗が、身代わりになる隙もなく。
兄貴の拳は、岸君を捉え。
重い拳をまともに食らってしまった、岸君は。
軽く宙を舞って、地面に落ちる。
その。
地面に転がった岸君を、兄貴は蹴飛ばして、静かに言った。
「……立て。
まだ、ガタが来るほどは殴ってない」
「兄貴、やめて……!
岸君が、悪いワケじゃないのに!」
ここで、ようやく。
岸君と兄貴の間に割って入る事が出来たあたしに、兄貴は、すぃ、と目を細めた。
「愛莉は、どいていて?」
「でも……!」
「……俊介は、本気で殴ってないし。
岸は、受け身を取れてた。
愛莉は、心配しなくて良い」
なんて。
なんで直斗まで、そんなに冷静なの!
ヒトが殴られたってのに!
二人の間で、まだ頑張ろうとしていたあたしを。
まるで、荷物みたいにひょいと抱き上げて、直斗は、言った。
「ま、手荒な挨拶だと思って見てるんだな」
挨拶!
どんな野蛮人の挨拶よ!
思わず、直斗を睨んでいるうちに。
岸君は、痛みに呻きながらも起き上がり、また、兄貴を正面から見た。



