俺様先生と秘密の授業【完全版】

「愛莉のケガは、お前がやったのか?」

 と。

 まるで。

 地の底から聞こえるような、低い声に。

 見れば。

 兄貴が岸君を、睨んでいるところだった。

 しかも。

「はい。
 直接オレがやったわけじゃないですが。
 オレを庇ってついてしまった傷です。
 だから、責任は、オレにあります」

 ……なんて、正直にいわないでよっ、岸君!

 兄貴一人だって厄介なのに!

 兄貴の言うことだったら、なんでも聞く集団が囲んでるのよっ!

「あの莫迦……!
 この状況が、怖くねえのか……?」

 本当に、マズかったら、岸君を助けるつもりらしい。

 立ち位置を変えるために、こっそりと移動を始めた直斗のささやき声に。

「知らないわよっ!」ってささやき返して、兄貴を見た。

 うぁ。

 ヤル気満々、迫力満点の表情(かお)してるっ!

 ライオンの前にいる、子ウサギちゃん状態の岸君は、怖くてすくんでいるのか。

 それとも、相当、肝が座ってるのか。

 とんでもない迫力にも、一歩も引かずに、兄貴を真正面から、見ていた。 

 でも。

 そんなの、全く関係なく、兄貴が、大股で近づいた。

 あっという間に、兄貴が岸君を殴れる拳の射程距離……間合いまで差を詰める。

 や、やばっ!

 ま、まずっ!

「ま、まって……!」

 って、あたし、岸君と兄貴の間に割って入ろうとした……のに。