「いいのよ、私なんか置いてって…」


「置いて行ける訳無いだろう!」

あのハルが、珍しく語気を強めた。


「ほら、染みるか?」

消毒液を浸したティッシュが傷口を熱くする。


「ハル……なんか変わったね。」


「そうか?……いや、変わったな。」


「今のハルの方がいい。私と居たときはもっと怠そうにしてた、あんな機敏なハル初めて見たよ。」

秒速で消毒液を買いに行った。


「あれは、阿東に言われたからだよ……」

彼の、特別な存在感だけは理解出来た。


「今は、恋愛してる場合じゃないって訳か……」

聞こえないように独り言を漏らす。


「歩けなかったらおぶるけど。」


「……それはいいから!」

そんなことされて好きになったら辛い。


「いや、絶対に俺達は帰らないといけないから。」

責任感あるんだ、保護者みたい。


「私、あの人のこと誤解して嫌な女だった……ハル謝っておいてくれる?……多分、そんなに嫌いじゃないかも……」

そんな言葉が飛び出すとは、自分でも驚いた。


「止めとけ、お前には向いてない。」

すかさずハルから制された。


「ハル……なんか変……」

あんなに余裕だったハルが阿東のこと好き……というか必死になってる。

完敗……なのかな。
ハルの背中の温もりが伝わってくると、自然と胸のつっかえも取れて、さよならを告げる前に家にたどり着いていた。