突然、体が勝手に動いて、いてもたってもいられなくなった。
阿東の声が頭を巡って熱くなり、気付けば走り出していたのだ。
あまり意識していなかったが、恐ろしいものが頭に刺さっていたようだ、いっこくも早く外して貰おう。

阿東は叔父と二人暮らしらしい、その、叔父の部屋が日当たりの悪い突き当たりの襖の部屋のようだ。
古い木材建築で、歩くとみしみし床が軋んで不気味である。

「おじさん、入るよ……」

阿東が襖を開けると、無数の配線が畳を犇めいていた。

奥でぶつぶつ独り言を唱えているのが阿東の叔父のようだ。


「おじさん……、御膳下げるよ。」


「………………ああ。」

叔父は阿東に振り向きもせず作業している。


「おじさん……」


「今、忙しいから出て行ってくれないか。」

阿東は言われるがままに部屋からでていこうとした。


「おい、俺のアンテナ取るんだろ!」


「だって、邪魔しちゃいけないと思って……!」

この家のルールなのか、阿東の性格なのか、俺の都合はお構い無しだ。


「いい、お前に頼ったのが間違いだった。俺が言いに行く……」


「待って!」

襖に手を掛けたところで、全身が硬直した。
阿東の声が頭から爪先まで響いた。

まるで、躾られた犬だ。


「用件は手短にな。」

苛々しているが、阿東の話に耳を傾ける辺りは親代わりなだけあるようだ。


「友達出来たんだよ。」

違う違う違う、用件はそこじゃないだろ!
俺のアンテナの話はどこ行った!
もしや阿東って、どっかズレてないか?待てと言われてさえいなければ、罵倒してやりたい。


「良かったじゃあないか……。それじゃあ。」


「ちょっと待て!」

話すとこ違うだろ!


「君……頭に付いているようだね。」

叔父は幾分か話が分かるようだ。