「うわーん。うわーん。」

早春の大陸『スプリング・フィールド』のとある街で、小さな男の子が泣いていた。

よく少年の上を見ると、木に赤い風船がからまっていた。

「うわーん。ぼくの風船が、風船がぁ。」

泣く少年をなだめる母親。

しかし少年の機嫌は直らない。

「おやおや一大事だね。シルフィード。」

通り掛かりの青年が、その光景を見て優しく微笑んだ。

そして小さなカバンからフルートを取り出すと、洗練された美しい魔力を込める。

「さぁ皆躍れ『春風のワルツ』」

吹き鳴らされたフルートの音に応えるかのように、暖かな風が辺りを包んだ。

「……はっ。この音色はまさか。」

母親がそれに気付いた時には、木にからまっていた風船が自由になり、空に舞った。

青年がフルートの音を止め、右腕を空に出す。

すると、ふわりと躍りながら赤い風船が青年の手にゆっくりとおさまった。

「さぁ、どうぞ。」