シルクがミカエルにより新たな力を与えられた頃。

王都に入るケルデラ山脈の中腹である男が戦っていた。

「ふん。ちょこまかと逃げ足だけは速い様だな。」

たくましい体躯に金髪金眼の男。

サマー・ガーデンの治安を支える警務団(けいむだん)の本拠地がある暁(あかつき)からやってきたその男こそ。

警務団第一支部隊長・ゲセニア・アルボルトであった。

「はぁはぁ、なんだってあんな化物みてぇに強ぇヤツに追われなきゃなんねぇんだよ……」

リーピン・アンデラ。家宅強盗の常習犯であり、数回殺人にも至った指名手配犯であった。

リーピンは木々の生い茂る場所を選び逃げる。

こちらからはゲセニアの姿は見えない。

それでも足を止めることなどできなかった。

「……くそ。なんだよ後ろからへばりついてくる様なこの気持ち悪さは。」

リーピンが一瞬後方へと振り返ったその瞬間。

「……ほう。この力を感じ取れたのかね。」

「……え?」

背後に突如現れたゲセニアにリーピンは腰を抜かして座り込む。

「ひっ……あんたいつの間に……ば、化物ぉおっ!!」

懐から取り出した拳銃でゲセニアを打つリーピンの顔が蒼白に沈むまでに時間は掛からなかった。