『誇り高き老兵……オルター・クラフィティーここに眠る』
代々大陸王が祀られる墓地に1人の少年と天使が訪れていた。
『少し風が冷たい、そろそろ城に戻られてはどうですか?』
優しい眼差しと言葉。
ミカエルは相も変わらず全てのものへの尽きることの無い愛で溢れていた。
少年は何も言わずに墓標を見つめ。
しばらくして胸ポケットから何かを取り出した。
『タバコはもう止めたのではなかったのですか?』
「……手向けだよ」
そう小さく言ってタバコの先に火を点ける。
煙は真っ直ぐに空に向かって伸びていった。
『おや?』
真っ直ぐだった煙がわずかに揺れた。
少年とミカエルは振り返る。
「やぁ久しぶりだねミカエル。
そしてーーソフィア」
突如現れたワイズ。
ソフィアは無表情のまま顔をそらした。
『元気そうですねワイズ』
「ああ君も元気そうだねミカエル」
ワイズとミカエルはお互いに微笑み会う。
「調子はどうだい?晩秋の大陸王」
ワイズの言葉にソフィアは目をそらしたまま面倒臭そうに答えた。
「ぼちぼちだ。
世間話なら帰るぜ」
そう言いはなってソフィアは歩き出した。
ミカエルは深くお辞儀をしてソフィアについていく。
ワイズは真剣な顔で二人の背中を見送っていた。
『ねぇどうしたミカエルはソフィアについていくことにしたの?あんなやつ……』
「ソフィアを悪くいうのはやめるんだシルフィード。彼も被害者の1人なんだから。
それにミカエルがソフィアにつくことを決めたのは彼なんだから」
ワイズは遠くの空を見つめる。
現在五大陸が、海に浮かんでいる。
宴の時だけ現れる第五の島は王位継承が済んだ後もこの世界にあり続けていた。
それは悪魔王サタンとの戦いによって生じた障気のせいとも、世界の全ての命から魔力が募った際に、アバンカールドからも魔力が奪われたせいとも言われている。
歪みによって生じた問題はそれだけではなく、百年の不老不死の呪いも消えていた。
「彼は今ごろ何処で何をしているのだろうか。
あぁ会いたいなぁ。会いたいよ……シルク・スカーレット」
百年に一度、世界に魔力が溢れ出す。
精霊は自らが聖霊となるため人々に力を与える。
選ばれし者よ闘え。
そして聖剣の元に膝まずき百年の不老不死の呪いを以て世界を治めよ。
「ねぇ知ってる?
この世界にはまだ見ぬ未知の感動が溢れているんだよ。
皆にも見せてあげたいなぁ」
シルクは世界を旅している。
ルシフェルとの闘いでシルクは魔力の全てを失った。
もはや彼にはミカエル達・精霊を見ることすら叶わない。
言葉が届くのかも分からなかった。
それでもシルクはあの時、神頼みのように天を仰ぎながら友に頼んだ。
「ミカエル。君の力でソフィアを助けてやってくれ」
世界は回り続ける。
そして大陸王達をはじめとし、人々の幾人かは何処かで確信していた。
いつの日か聖剣アバンカールドに魔力が戻り、世界には再び魔力が溢れる。
そして人々は幾度目かも知り得ぬ闘いの中にまた身を投げ出すのであろう。
己の誇りをかけて。
たった一つの大陸王の座をかけて。
揺るぎ無い強い覚悟を胸に……
『聖霊の宴』fine......



