『ふはははは!素晴らしい、素晴らしい器だ!!』

ルシファーは声をたからかにあげて笑う。

リコの闇の強大さに、無慈悲に思考が止まるシルク。

リコはそんなシルクにじりじりとにじりよる。

「強く美しい魔力……

光は嫌い。消えて」

リコが左手を上げた瞬間に身震いするほどの凶悪な魔力が、その小さくか細い手に集約していくのが分かった。

『シルク!!』

唖然とするシルクだったが、ミカエルの叫びにようやく思考が戻り始めた。

「……『黒撃』」

分厚い闇が恐ろしい速さで迫り来る。

それは音もなく物質を飲み込んでは、シルクすらもこの世界から消し去ろうとしているのだった。

「くそっ、『光幕』!」

圧倒的な闇が光と弾け合い、薄暗い雲に覆われた空に立ち上る。

それは雲さえもを吹き飛ばしながら消し去り、急速な気圧変動によって錯乱した雲の幕がスコールの様な雨を落とす。

激しい雨粒に頭を打たれてシルクはようやく今の自分の置かれている状況を理解し始めていた。

「ミカエル、僕はどうしたら・・・」

それは言葉には出さずとも「リコを救えるの?」ミカエルには真意が伝わる。

故にミカエルは返答することができないでいた。

シルクは全てを理解しうつむきそうになる頭を上げて、真っ直ぐにリコを見つめるのであった。

「次は逃がさない『黒撃‐悲愴』」

闇が大地から湧き上がる。

シルクはすぐに白翼で空に飛んだ。

リコが大地に手をゆっくりとあてがう。

湧き上がった闇の沼はゆっくりとリコを中心とした同心円状の波紋を作る。

「なんておぞましい障気だ・・・」

波紋は次第にその間隔を短く、荒々しく、遂には同心円状など見る影もないほどに混濁し渦巻き始めた。

『恐ろしい程に濃縮された障気ですね。

いくら今のシルクでも、あれに触れたら間違いなく正気を保つことなどできなくなるでしょう。用心してください』

「ああ、分かってるよ」

シルクはすぐにオハンを身につける。

オハンは危機察知によって持ち主を危険から回避させる能力を有している。

それは戦闘において重要なサポートを果たすことは間違いない。しかし、オハンにはもう一つの特異な力が宿っていた。

シルクはオハンに魔力を注ぐ。

オハンはシルクの純粋な光の魔力を喰らう。

みるみる内にオハンは輝きだし、その光はシルクを護る盾のように変形していった。

『持ち主の魔力を喰らう暴食堅固の盾。純粋な光を宿す魔力であればあるほどにその力は膨れ上がる。

あの小僧は最早天使と同等の純粋な光を宿す魔力を放っている。さしずめ今の奴のオハンは絶対防御と言ったところか』


混濁する闇。

空から大地を照らさんとする光。

リコが大地にあてがっていた手をシルク目掛けて掲げる。

まるで大地と空を分かつかのように地平線上でせめぎ合う強大な魔力。

周囲に弾けていった魔力ですら大地を裂き、雲を散らし、生物の命を刈りっていく。