ソフィアは漆黒の鎌を携える。
それは羽のように軽々と振りきられる。
「『光幕』!」
シルクは羽衣を壁にしてそれを受け止めた。
「――!!」
強固な壁にソフィアの表情が一瞬にして曇った。
シルクの目は冷静にそんなソフィアを見つめている。
「まぐれか?俺様の鎌があのカスの羽衣に弾かれるなんて」
ソフィアは思い切り振り上げ鎌を躊躇なく振り抜く。
速度を捨てて、斬殺の為だけに力を込めたそれはシルクの羽衣を容易く契り去る。
しかし、その刃がシルクに届くことはなかった。
「残念。届いていないよ」
たった二歩と半分。
羽衣が切り裂かれる間に、たったそれだけ移動していたシルクはソフィアの鎌がギリギリ届くことの無い位置に回避していたのだ。
「『光撃』!」
ソフィアの目の前で炸裂する光。
なんとか身体を剃らせて回避したソフィアだったが、距離を取ろうと足を踏ん張った瞬間にようやく気付いた。
「……なん、だよこりゃあ!?」
いつの間にかソフィアの足は岩石の輪に捕らえられていた。
「闘いの最中に敵から目をそらすのはよくないよ」
シルクの左手がそっとソフィアの右肩に触れる。
「ほら、こうして隙が出来た――『光撃』!!」
光がソフィアの肩を撃ち抜く。
「ぐあぁぁぁぁあっ!!!」
ソフィアは遥か後方にまで吹き飛んでいく。
転がるソフィアに大地が削れて砂埃が舞った。
「勿体ぶらなくても良い。
早く出ておいでよ」
ソフィアがいたであろう場所からおぞましい魔力が溢れだした。
砂埃が瞬く間に吹き飛ばされる。
「――殺してやる。殺してやる!オーパーツ『グレイプニール』!!」
ソフィアの手に握られた漆黒の鎖。
生物の様に蠢きながらソフィアの周りを這いずっている。
その様はまるで獲物を今まさに狩ろうとしている蛇の様だった。
「凄い魔力。でも君の力は少しも怖くない」
「だったら恐怖も感じるまもねぇほど一瞬で殺してやるよ!!」
乱暴に降りきられた鎖。
回避したシルクの後ろで大地が弾けとんだ。
細い鎖のどこにそんな力があるのかは分からないが、今までのどのオーパーツよりも破壊的な力である。
「もう理解して欲しいな…」
「おぉぉぉぉおっ!!」
枝分かれした千の鎖が全方位からシルクを襲う。
ブラックホールのように周囲の物質を飲み込みながらグレイプニールはシルクを絞殺しようと口を開ける。
「理解できないか……」
悲しげに俯いたシルク。
魔力を収束させて一枚の羽を作り出した。
その煌めく羽を空に投げる。
「悪しき力を浄化せよ『アーク・レイ=天界の光=』」
打ち上げられた羽が燦然と耀き、光の雫がうち放たれる。
光の雨は魔力を浄化しながら障気を孕んだ邪な者を無情に打ち払う。
「ぐぁぁぁぁぁぁあっ!!」
地面に倒れるソフィア。
シルクはたたずむ
その顔から警戒の色は消えてはいなかった。
「……けんな!ざけんな!!ふざけんじゃねぇよぉ!!!」
全身を貫かれたソフィアが怒りに身を任せて立ち上がる。
ボロボロの体になりながらもソフィアの瞳からは畏怖すら感じるほどの憎しみを放っている。
『もう少し。もう少しだ。
これでもう、この餓鬼もお払い箱。さぁ、もっと怒れ憤れ、そして悪魔(俺様)に心を捧げろ』