また視界が開けて、シルクは理解してしまった。

「そうか……僕はもう」

シルクはミカエルを見つめる。

ミカエルは今までのどの時よりも悲しみに満ちた顔で俯いた。

シルクはゆっくりとミカエルに近付く。

「ミカエル。

僕はこの選択を決して後悔しない。だから、君も後悔しないでくれ」

『シルクあなたは……』

シルクは力強く頷いた。

そしてゆっくりと三歩ほど進んで、床に手をついた。

「強力な幻術。外からも内からもこの幻術には干渉できない。

でも、伯爵は僕にこの空間から抜け出すための抜け道を用意してくれているはず。

それが、この魔力の小さな渦だと理解した」

常人には感じることなどできない小さな魔力の濁った渦。

それに優しく触れるとシルクは魔力を注ぎ、その渦を広げていく。

「ミカエル、僕はもう一度言うよ。

この先の結末もほぼ理解した上で、僕がこれからどうなるのかも分かった上で改めて言う。

僕は――――」

渦はゆっくりとゆっくりと広がっていたが、次第に急速に広がりだす。

回転は乱れ、渦はすでにシルクを飲み込むほどに広がっていた。

「僕はこの世界に生まれたこと。この僕という存在も、君に出会えたこと、君から授かったこの力も。

この先の結末も決して後悔しない」

渦が強烈な光を吹き上げると、幻術が霧のように崩れていく。

ミカエルはもう俯かなかった。

『はい。私もあなたに会えたことを誇りに思います』

「……うん、ありがとうミカエル」

空間全体が光の粒となり混濁する渦のなかに飲み込まれていく。


そして幻術は崩れ去り、シルクは元居た空間に投げ出されるのだった。