先程よりも5ミリ深く。

更に照準を絞り込み2ミリ。

次こそはと振り切った拳は、シルクの誤差修正に伴ったクラフィティーの正確な目測の元、大きく空振りをする。

「……くそっ」

焦りとも感じられる溢れ出た言葉。

しかしその表情は全く違う感情を表そうとしている。

『シルク……


本当に、愉しそうですね』

人は誰しもが限界を追い求める。と同時にそこにたどり着くことへ恐怖を抱いている。

それは己の力の終着点であると思われるし、決して越えようのない天井にすら思えてくるからだ。

ある人は限界の先にはまだ果てない先があるという。

『そうです。越えなさい』

今シルクの神経は超感覚とも言える領域に達しようとしていた。

筋繊維の悉くを駆使し、超感覚に身を委ねるその姿は脅威的でいて、どこか悪戯を楽しむ子供の様にも見えた。

「…………むっ!」

この闘いが始まって初めてクラフィティーが後方へと大きく回避した。

目を隠すようにずれてしまったハットを直すと、眉のわずかばかり上に小さな切り傷が見えた。

「全く……スカーレットの血族には毎度驚かされる。

こうも易々と己が限界を越えてくるとは。だが、まだ


……甘い!」

一瞬にして間合いを詰めたクラフィティー。

超感覚で反射的に光撃を放ったシルク。

光速すらをも凌駕したかのような読みの鋭さで回避したクラフィティーは悠々と今、正に限界を越えて闘いに没頭するシルクの背後を取った。