「ぐあぁっ!」

脇腹を裂かれたシルク。

シルクは確かにクラフィティーに拳が届いたのを覚えている。

クラフィティーのスーツの布の感触を感じた時、まだ確かに刃は鞘に納められていた。

しかし、クラフィティーの年齢とはにつかない強靭な体躯に拳をめり込ませようとした瞬間、シルクは脇腹に痛みを覚えて、遥か後方へと退いていた。

「……どうした?」

「……………」

クラフィティーは意地悪く笑った。

結局、己の潜在能力を解放させても分かったのは圧倒的な実力差のみ。

根底から闘士をへし折るかのような絶望感が身体を蝕んでいくのを感じるのだった。

「…………何故笑っている?」

シルク自身、対峙していたクラフィティーに言われて、自らが笑みを溢していることを知った。

シルクは震えていた。

『シルク?』

「ミカエル……初めてなんだ。


初めて僕は、闘いの中で楽しさを感じている」

己の眠っていた力の覚醒に、本来ならば闘いを好まないシルクの、抑圧されていた闘争本能を呼び起こしたのか。

『では、存分に闘いの愉悦とやらを楽しむと良いでしょう。』

「ああ」

飛び出したシルク。

第一撃はいとも簡単に回避されたが、流れた力を利用してさらに第二撃へと繋げる。

回転を利用した蹴りは速度と力量を跳ね上げて加速し、まだ地面に着地していないクラフィティーを追い詰める。

そこはステッキを沿わせて受け流したクラフィティー。

もう一方の手に握られた刀の柄の先でシルクを打つと、下方に傾いた身体に膝げりを見舞いする。

腹部を蹴り上げられたシルクは、地面に這わせていた羽衣を引く。

光は打ち上げられわすがにクラフィティーのハットの先を焦がした。

わずかに焦げた匂い。

クラフィティーは白い手袋のまま、その部分を摘まむ。

「ふっ。

残り5センチが遠いな」

未だシルクはクラフィティーに触れることすら叶わない。

「次は……もっと深く削ります!」

にっと、笑うシルク。

同じ名を持つ、祖父と同じ目をしていた。


「そうか。

では、来たまえ!」