グレイシアが誰も知らぬ過去の話をマリアに語る頃、クラフィティーと対峙していたシルクはあることに気づき始めていた。

左脇腹をえぐるような薙ぎを、身を翻しながら回避する。

着地の瞬間に身体にかかった負荷は、次の動きへと繋がる反動のちからを産み出す。

無論それは感覚レベルでしか反応することができないような、業瀑の中の一粒の水滴の様なエネルギーの流れであり
普段であればそれはただ身体を硬直させるだけの抵抗にしかなり得ないものであった。

「……身体が、勝手に反応する様だ」

回避し、着地した足に地面に着いた力が跳ね返る。

その一粒の水滴は一寸にも遠く満たない微々たる筋繊維までもの操作を以てして、次なる行動へと繋がる力を産み出すのだった。

着地の反動をほぼ100%利用したシルクの動きは普段の倍の速さでクラフィティーの懐へと侵入する。

各動作毎に本来ならば力は溜め、目標に向かって放たれ、自身の身体を傷つけぬ様に急速に力は抜けていく。

しかし今のシルクは動作をする毎に力が増し、繋がり、それはまるで一連の流れをなぞるかの様に美しく連なっていく。

「……ふっ。

あの時、地面に尻をついていた小僧が、逞しい戦士に成長したものだな」

連動した全ての力が集約されてクラフィティー目掛けて放たれる。

シルクの左の拳がクラフィティーを捕らえた瞬間。

今まで鞘としているステッキの中に納められていたはずの刃がシルクの無防備な左脇腹を裂こうとしていた。












「彼は闘った相手の潜在能力を解放させ、その上で勝利する力を持っている。

私は彼と闘っていたあの瞬間、自らの内に潜む力に心が震えるのを隠せなかった。

でも、それでも彼には……勝つことは遠く叶わなかった」

グレイシアは目の前に浮かんだ光景を消すかのように目を閉じた。

今でも目に焼き付く、クラフィティーの修羅のごとき強さに。