「なっ……何が起こったんだ?」

急に眼前に広がった大地にシルクの思考はまだ追い付いていなかった。

「何故僕の方が倒れているんだ?確かに僕は伯爵を捕縛する寸前だったのに……」

背中には敵がいるというのに、シルクは立ち上がりも振り向きもせずに独り言をもらしている。

『シルクが混乱するのも無理はない。それだけ彼の動きは速い。

恐らくシルクには先ほど自分が倒された一部始終の、断片すら見えてはいなかっただろう』

頭を抱え、どうにか冷静さを取り戻しつつある時、シルクは背中越しに靴が地面を擦るおとを聞いた。

その瞬間、自分が今まさに生死を分けるような戦いの渦中にあることをおもいだすのだった。

飛び起きたシルクがクラフィティーを見る。

クラフィティーはシルクが再び臨戦態勢に入ったことを確認し剣を構えた。

「……次は、斬る!」

クラフィティーがそう語気を強めた瞬間。

『ギョエエーエエエエェェェェッ!!』

今までにない激しさでオハンが叫び声をあげた。

シルクはその警告を受け、反射的にタラリアで後方へと跳んでいた。

が、クラフィティーはそんなシルクを見事に捕らえ、肩口を悠々と切り裂く。

「くっ、はぁはぁはぁ」

肩から血が流れ、羽衣を赤く染めていく。

「ダメだ……速すぎる。


スピードもキレもサスケを軽く凌駕している。血塗れ伯爵の本領がこれほどまでに怪物的だったとは」

圧倒的なスピード差。

一方はギフトを駆使しながらも致命傷を避けるのがやっと。

そしてもう一方は未だギフトすら使う様子もない。

これまでの数回のやり取りで、絶望的な実力差を思い知らされてしまったのだった。