シルクはその男を目の前にして全身の力が抜けていくのを感じていた。

「あっ・・・」

低めのシルクハット、着こなされたタキシードが揺れ、手に持った鉄製の杖、白い手袋。

歴史を刻んだ皺、鋭い眼光は射抜くよう。

「あなたは・・・やはり」

その肩にちょんと座る二尾を持つ猫は鉄パイポからシャボン玉のような物を吹かしている。

その人物にシルクが見覚えがないはずもなかった。

「なんでですか・・・

なんであなたが」

幼い頃に生命を助けてくれた。

迷いの中で道を記してくれた。

迫る驚異から逃がしてくれた。

シルクがここまで力を付けることができたのは過言でもなく、今目の前でシルクに殺意を向けている人物のおかげであった。

男は杖を両の手で持つとゆっくりと引く。

持ち手の部分がゆっくりとズレ、中から鋭利な刃がむき出しになる。

「さぁ・・・


覚悟は良いかな?」

長い刃が光を反射してハットと癖のある髪の毛に隠された顔を映し出した。

「何でだよ。何でなんだよ!!

うわああああああああああっ」

シルクはソフィアへの激昂をむき出しに魔力を纏う。

「くそ、くそ、くそおお!!

どうしてですかクラフィティー伯爵!!!!!」

飛ぶように前に出たシルクが一瞬にして男との距離を詰める。

身に纏った大天使の羽衣がいつもよりも強く激しく、荒々しく光っていた。

「良い魔力を放つようになった。



いざ・・・参らん」