「まずは貴様がグングニルの錆となるか?」
サスケの問いにシルクは答える。
「断る。今のあなたには負ける気がしないからね」
シルクの言葉に一番驚いたのはワイズであった。
『馬鹿な人間ね、そんなの挑発にもならないわ』
シルフィードの言葉は確かに正論かもしれない。
大陸王二人で対峙してようやく上回ったサスケが、必中必殺の槍という文字通り最強の矛を手にした今、シルクの言葉など挑発の意味すら成さないのかもしれない。
しかしシルクの瞳の輝きは寸分も汚れてなどいなかった。
「シルフィード・・・」
『何?ワイズ』
シルフィードはすぐにワイズの異変に気付いた。
「僕はこの124年の年月、どうして生かされていたのかがようやく分かった気がするよ」
『ワイズ・・・』
100年もの長い月日を共に過ごしたのだ。
シルフィードにはワイズの意図するものが言葉で伝えられなくとも分かってしまった。
一雫の光がシルフィードの頬を伝って落ちた。
「精霊も涙を流すのかい?」
ワイズは意地悪そうに笑っていた。
シルフィードは笑う。
『どっかの救いようのない馬鹿な人間に当てられて変になったのかもね』
「ははは。それは気の毒だ」
二人は笑った。
お互いの覚悟を知ったうえで。
別れの時が着実に迫っていることを知ったうえで、一人の少年に世界の希望を託すため己の命を捨てる覚悟を決めて。
「いままでありがとうシルフィード。
願わくばこの戦いの先に広がる世界も君と一緒に見ることができたら・・・良いと思うよ」
『ええ。そうねワイズ』
翡翠の風が煌く。
その光は力強く、それでいて何処か悲しげな美しさだった。



