ワイズは小さく笑った。
「確かに今のままではその通りだ。
だけど忘れてはいないかな?僕が大陸王だということを」
ワイズの魔力が溢れだす。
洗練された魔力は清らかな風を産み出し、奔放に遊ぶように部屋を駆け抜け、そしてワイズの元に収束する。
「見るが良い、これが僕のオーパーツ『憂いの緑翼』さ」
『翡翠色の風?』
エメラルドの様に輝く風が翼を形取りワイズの背に生えた。
「綺麗だな」
サスケが呟く。
「盲目だと言っていたね、見えるのかい?」
「不粋なかとを聞くな大陸王。
これほどに洗練された魔力が形取る物が美しくないわけがなかろう」
サスケはゆっくりと柄に手をかける。
殺意とは違う、研ぎ澄まされた戦意がサスケが本気になったことをワイズに告げていた。
「いくよ。
『雷雨の円舞曲』」
雷の様に激しく、雨の様に不可避に荒れ狂う翡翠の風。
瞬く間にサスケを取り囲む。
「これは……」
この時初めてサスケは回避の為に居合い抜きを使う。
縮地法により部屋の隅から隅へと移動。
しかし、まるで追尾するかの様に翡翠の風はサスケを呑み込もうとしていた。
「小癪な……致し方がない」
サスケはこれまでの力を抜いた構えから深く力を込めた構えを取った。
速力を捨て、攻撃力に特化した構えだ。
「静まれ『大蛇一閃』」
全霊を込めた中段横一閃。
荒れ狂う風の牙を悉く切り裂き、風が止んだ。
サスケの霞にはワイズの解き明かした能力とは別にある能力が備わっていた。
とはいえワイズが想像だにしていなかったものではなく、ただ解明するに足りないものであったし、サスケにしてみれば日常生活で培われた第六感を補足する為だけのものであった。
その能力とは霞に触れる対象の動きを感知すること。
大蛇一閃の為に全身全霊を攻撃に当てたことで第六感はおろか、霞による感知さえもサスケはできない状態にあった。
それは時間にすれば一秒にも満たないもので、本来ならば命をかけた闘いであっても支障のないものであった。
はずだった。
「やっと捕らえたよ、サスケ」
サスケの眼前に迫るワイズ。
ワイズがサスケの前で手を空で切ると、サスケは翡翠の風に呑み込まれた。
「ぐっ、ぐぁぁぁあ」
この闘いで初めてワイズの攻撃がサスケに届く。
「こんな物で拙者を倒せるとでも思ったのか!!」
サスケの太刀は悠々とワイズの風を切り裂く。
サスケの右腕から小さく血が滴っていた。