「お前……なんだ。」

凪の王の目付きに戻ると、背筋は伸び風格が生まれる。
ビキは王らしい彼を初めて見た。


「そうだ、お母様が贈ったからにはお前には利用価値があるのであろう。」

まるで別人が動くように、ビキは猿轡を噛まされたまま、暗躍の命令を下した。


王の代わりに政を行っていた側近を静かに、減らしてゆく。

不審がる者も居たが、構うことは無かった。


「この國は模造だ。
父が女狐に陥落してからは完全なるまがい物だった。」
王なのかマギオのものかわからない瞳で、散歩をしている。
王國の誇る空中庭園だ。


庭園の下は大きな人工湖が囲んでいる。
湖の先には森が、市民との仕切りの役割を果たした。


「お前は物言わぬ人形だ。ナタリヤもそうだった。嫁いで最初の頃に、毒を飲んで喉を焼いて口がきけなくなった。
私を恨み私を拒んだ。
醜く父さんに疎まれた私が、唯一王家の血を引いたのだ。溺愛したお母様の子供はお母様とどの馬野骨ともつかぬ下郎との子……。それでも自分の子供と疑わなかったが、結局はその可愛がった息子に父は刺された。
私もきっといつか刺される。そのときはナタリヤに殺されたい。」

透き通る湖の底には、柩が埋まっている。


「僕の母様に伝えて。死んだらあの柩に沈めて……あとは全て贈ります。」

僕の母様、つまり王子のことだろう。
マギオは徐にビキの指を絡め、空中庭園から落下した。


「君は黒い天使だから、死の國に迎えに来たんだ!」

狂人の笑い声が水面に浮かぶまで響き渡る。