隣人の狂気

あの日のイクエはユウイチに語った通り死体のそばに小一時間いた。

海水浴で濡れた体をナイフをくるんできたタオルでざっと拭き、服や靴からキレイに砂を払って着替えたりしていたからだ。

「俺の予想じゃあイクエちゃんは全く急いでなかったはずだ。

死体がある事も人が来たらヤバい状況って事も頭になくて、服のちょっとした汚れがシミになったらイヤだなあとか考えてたんじゃない?」

伺うようにユウイチが視線を投げると、イクエは口元を両手で隠すようにして目を見開いていた。

「すごーい。どうしてそんなにピッタリ分かるの?」

「簡単だよ」

ユウイチは目をそらして零した。

「まるで『我が身』の事のようにね」