最初は伊織と一緒にいられるだけでよかったし、満足だった。

こんなに欲張りな自分じゃないと思っていたのに、一緒にいる内に欲なんて段々と膨れていく。

一緒にいれば、ずっとこのまま一緒にいられれば良いのに…なんて思ってしまう浅ましい自分すら出てきてしまう。



「――…一緒にいないほうがいいのかな、私たち…。」

「……それはメグの本心か?」

「っ、そうだよ。」


まっすぐな視線から目を逸らさずに貴方に嘘を付く。

本当は本心なんかじゃない。
でも、これからの伊織の将来を考えるならこうするしかない。


何も後ろ盾がない私なんかより、後ろ盾がある円香さんと一緒にいたほうが良いに決まってる。

こうやって考えられるようになっただけ私は少しでも大人になったのかなって思える。



「じゃあね。」


何も言わずに目の前に立っている伊織の横を抜けて玄関に向かう。

まさか自分から別れを選ぶなんて夢にだって思わなかった。
好きだから別れるなんて馬鹿馬鹿しいって思ってたはずなのに、今そんな馬鹿馬鹿しい事を自分がしてるんだ。


――…好きだから離れるって本当にできるんだ…。


玄関でパンプスを履きながらじわりじわりと目尻に涙が溜まる。
それを乱暴に拭き取りながらちらっと後ろを見ても伊織はいなかった。



「さよなら、伊織…。」


面と向かっては恥ずかしくて言えなかった。でも、私は貴方を誰よりも愛してた。


滲んだ視界のまま、部屋を出た後、後ろでガチャリとドアが閉まる音が虚しく響いていた。