「お…甘えたメグか?」

「……ダメ?」

「いや、大歓迎。」


七ヶ月前、専務との契約が始まってから自分でもわかるくらいに伊織に不必要な位甘えるようになった気がする。

伊織が傍にいれば当たり前のように隣に立って、座れば抱き着く。

ごまかすみたいで嫌だけど、私にはこうする事でしか正気を保っていく事しかできない。


隣にいる伊織の腰に抱き着いて、胸に耳を当てる。
そうすれば伊織は今、傍にいるって実感ができる。



「どしたよ。」

「…別に。ダメなら離れる。」

「駄目じゃねぇけど…これじゃ俺がメグに触れないし。」


髪を撫でてくれる大きくて暖かい掌にほんの少しだけ体を離して伊織を見上げる。

いつもそれが合図になったように戯れの時間が始まるんだ。



「メグ、可愛いな…お前」

「っ…うるさい!」

「素直じゃないとこもまた…」


短くて優しいキスが何度も顔中に降ってきて、くすぐったいような嬉しいような表現しがたい気持ちのままそれを受け入れる。



――♪〜♪〜♪〜―



「いお…電話…っ」

「ほっとけ。」


首筋にキスして無視を決め込もうとする伊織を押し返して、睨みつければ上に乗っかるコイツは不機嫌そうに頭を掻きながら煩く鳴り響く携帯電話を手にして更に不機嫌そうに眉を寄せた。


――…円香さんだ。




「……はい。」


いつもよりワントーン低い声、私に対しての声じゃないのに体がびつくいてしまう。
それはきっと、私が伊織に後ろめたい事があるから。