伊織に抱きしめられたまま、私は罪悪感に押し潰されそうだった。
私には抱きしめてもらう資格なんて微塵もないのに、何も知らない伊織に甘えて今こうしている。
「なぁ、」
「…なに?」
「腹、減ったな。」
今言う事ではないだろう事を真顔で言う伊織に呆れてしまう。
コイツにはムードと言う言葉は一生似合わないだろう。
でも、今の私にはそれが少しだけでも救いになったのは事実だけど。
「飯食い行くか。」
「…私は…良い。会社戻らなきゃいけないし。」
「それなら大丈夫だろ。さっき今日は戻らないって連絡しといたし。」
……何ですと?
コイツ、今なんて言った?
なんでコイツが私の会社に連絡してるの?
「なんでアンタが?」
「あ?お前が連絡つかねぇからだろ。会社に電話したら戻ってないって言うから。
ついでに直帰させてもらうように言ったんだよ。」
いや、私が聞きたいのはそうじゃないんだけど…。
伊織の腕から上手く逃げ出した私はコイツを見上げて、盛大にため息を吐いてやった。
「所長、何か言ってた?」
「いや?何も。」
いやいや…そこはきちんと反論してください。
今はいない所長に心中でため息を吐いて、苦笑いを浮かべてしまった。
きっと、所長なりに気を遣ったのかもしれない。
今日の朝も元気ないって心配してくれていたし。
ちょっとの感謝を所長に、心中でお礼をいいながら行き交う人の波を見つめた。

