「俺はメグを忘れた事なんてないからな。
つーか、忘れるつもりなんてサラサラねぇし。」
カチャリと音を立ててガラスのローテーブルにカップを置いてから伊織は私の手から写真立てを抜き取った。
「全部ある。写真も、お前が置いてった服も、俺がお前にやったプレゼントも。
捨てられなかった。」
「…い…おり…っ」
「未練がましいって思うか?
お前を捨てて結婚なんてした男が…」
私はさっきまでの自分を心底呪いたくなった。
三年間、誰よりも自分を責めていたのは伊織自身だった。
それを私だけが被害者みたいに悲劇のヒロインみたいな気分でいた私。
――…伊織はこんなにも私を愛してくれてたのに…。
「伊織…っ…ごめんね…、」
「メグはなんも悪くねぇし。悪いのは中途半端な俺。」
喉に何か張り付いたみたいに出しづらい声を振り絞った。
それでも伊織は優しく笑って大きな暖かい手で私の頭を撫でてくれるんだ。
「ゴメン、今まで。
でも……俺にはメグだけだから。お前がいるならそれで良い。」
強く、はっきりと言い切る伊織に涙が零れた。
でもそれは悲しいわけじゃなくて…ただ嬉しかった。
「これからは絶対離れない。約束するからさ…
俺と居てくれ、な?」
不安そうな伊織すら愛しくしか思わない。
イケナイ関係でも、伊織に奥さんがいても…
私は再び出会ってしまった今、伊織からはもう離れる事はできないんだろうね。