好きだけじゃ足りない


駄目だ…。
私ってこんなに落ち込みやすかったかな?考えれば考えるほどにドツボに嵌まるのは目に見えている。



「メグ、お前はなんも悪くねぇから気にすんな。」

「っ……何が?別に私は」

「強がるのも良いけど…辛いなら言えよ?」


どんなに我が儘でも唯我独尊でも俺様でも、私の気持ちを何も言わなくても察してくれる。

伊織の大きくて暖かい手に瞼の奥が熱くなる。

それでも強がりな私は素直に泣く事すらできないんだ。



「此処、俺の家な。後でメグのも登録するから。」


何を、なんて聞かなくてもわかる。
このマンションは厳重すぎるくらい厳重なロックシステム。
マンションの入口も、部屋の入口も指紋認証がなければ入れないようになっているらしい。

登録は恐らく、私の指紋。



「登録しとけばいつでも来れるだろ?」


にんまりな笑みじゃなくて、すごく綺麗な見惚れてしまうような笑顔。

こんな風に笑われたら断るなんて絶対にできない。

違う……私は最初から断る気なんてないんだから。



「はい、どうぞ?」

「…どうも。」


ドアマンのように扉を押さえて、私の背中を押す伊織を見ないようにしながら、この男のプライベートルームに足を踏み入れる。


―――…もう、後戻りはできない。