「ふーん…色んな事あったんだ。」

「そうそう。だからね、梨乃も自分の気持ちに嘘を付いちゃダメって事。」

「難しいね…、でも!やっぱりすごく強いよ……お母さんは。」


何年…何十年経ったとしても、私はあの恋を忘れるなんてできない。

違う、絶対に忘れたくない。


希望、絶望

光、闇


色々な物を抱えて生きたあの恋は私の一生の財産になっている。



「でもさ……違う恋もあったんじゃない?」

「そうね、でも…あの人はお母さんの運命の人だった。
離れるなんてできなかったの」


あの恋からもう20年が経って尚、今も伊織を愛する私がいる。

目の前で不思議そうに首を傾げる自分のお腹を痛めた子供、梨乃の頭を数回撫でてから緩く微笑んで開け放った窓から入り込む風に瞼を下ろした。



「梨乃もわかるわ。必ず運命の人が現れるんだから…」

「そんなもの?」

「そんなものよ。」


楽しい、悲しい、寂しい、幸せ、色んな感情を共にできる運命の人にいつか梨乃も出会うかと思えば少し寂しくもなる。

それでも、楽しみな気分でもあるから不思議なものだ。