でも、私はそれで全ては納得できなかった。



「彬くん……彬くんは今のままで良いの?」


それだけが気掛かりになるんだ。
自分だけが幸せで、はい終わり。なんて許せなかった。



「良いも何も……大分前にフラれたから。」


マスターに手当てされてる掌が痛いからか、それとも自分の思いが軋んで痛いからかはわからない。
眉を寄せて口許に笑みを貼り付ける彬くんは悲しいと苦しいを混ぜたみたいな苦しそうな表情をしていた。



「"あんな旦那やめなよ"って言ったらさ…何て言ったと思う?」


見ている方が苦しくて息が止まってしまうかと思った。

それくらい、彼は苦しそうに顔を歪めていたんだ。



「――…"貴方は何があったって愛さない。

愛してるのはあの人だけ"


さすがにさ…それ以上何も言えなかったなー…。」


不確定要素だった事が確定要素に変わる瞬間だった。

好きな人がいるのはわかっていた。それでもそれが誰かまではわかっていなかったから。

それは私だけじゃない。
何もわかっていなかった伊織ですら、彬くんの片思いの人がわかってしまったんだ。