目の前の出来事のはずなのに、どこか遠くで起こった出来事なんじゃないかって位に靄掛かった時間だった。


さっきまでいたカフェから何かを話す事もせずに向かったのは、多分誰にも邪魔されない場所。

邪魔されず尚且つ多少騒いでも何も言われない場所。
私にとってはいつも助けてくれた場所でもある。



「……彬だけは責められないぞ、伊織。」

「わかってる。」


一言二言の言葉を交わして今はもう馴染みのあるカフェの中に入った私は周りを見るような、そんな余裕なんてなかった。



「メグちゃん…大丈夫かい?」

「すみません……騒がせてしまって…。」

「気にする事はないよ。ほら、此処に座って。」


いつものように優しい笑顔のマスターに緩む涙腺を一度目を閉じて引き締め直して、カウンターの椅子に腰を降ろした。

伊織は何も言わない専務と少し離れた、それでも声はしっかり聞こえる場所へと座っている。



「はい、ミントティー。」

「ありがとう…マスター。」

「大丈夫、伊織だって馬鹿な男じゃないんだし。」


カチャリと音を立てて出されたカップに視線を落として小さくため息を吐いた。