「私が気に入らないならそれで良い。世界中の人が間違ってるって言ったって良い。

それでも…伊織を好きな気持ちだけは否定しないで。」


初めてかもしれない。
自分がやってきた事を考えずに、ただ伊織が好きだと言えたのは。

少しすっきりとした気持ちの中で専務を真っ直ぐに見る目に今まで見た事のないような複雑そうな表情をした専務が見えた。



「……なんでそう言える?」

「…は?」

「だから…なんでそんなに堂々としてられんの?」


視線の先に居る専務は、何だか子供のようだった。

もしかしたら、今まで私が見てきた如月彬は本物ではなかったのかもしれない。


そう思った時、一つの仮説が頭の中で成り立つ。



「羨ましいな…メグちゃんが…」

「専務…もしかして…」

「ストップ。言わないでくれる?情けない男じゃん。俺…」


苦笑いを浮かべたまま髪をぐしゃっと掴んだ専務に私の方が胸が痛くなってしまった。

辛そうに眉を寄せてそれでも口許に笑みを貼り付ける姿はただ痛々しくしか見えなかった。