明さんの家に着いた時はまだお昼頃で空は突き抜けるような透けた蒼色だったのに、今はもう赤く丸い夕日が薄い緑色の海に沈もうとしている。


良いだけ泣いて、目も鼻も真っ赤になった私は有り得ない位ブサイクだと思う。

良いだけ泣いて…すごくすっきりしたのも事実。
明さんに言われた言葉も今はすんなりと受け止められる。

愛を伝えるだけなら人間じゃなくたっていくらでもできる。
でも、言葉で何かを伝えるのは人間にしかできないんだ。



「さぁ…夕飯の支度でもしましょうか。萌さんは何が食べたい?」

「え…私はなんでも…」

「じゃあ沖縄の郷土料理なんてどう?こんな機会じゃなきゃ食べないんだし。」


こうして何もなかったかのように接してくれる明さんにはたくさんのありがとうを言葉で伝えたい。
でも今は、まだ伝えない。
全てが終わった時にたくさんのありがとうを一番に伝えよう。


キッチンで冷蔵庫と睨めっこしている明さんにちょっとだけ笑って私もキッチンにお邪魔する。



「ゴーヤ…食べられる?」

「食べたことないです…」

「私は好きなんだけど…確か伊織君は苦手なのよね。」


冷蔵庫の野菜室から深緑のボコボコとしたゴーヤを取り出し、にんまりと笑う明さんに口許が引き攣ってしまう。