確かに伊織はいつもストレートすぎるくらいに気持ちを伝えてくれている。
なのに、私はいつもひねくれたように言葉を返すしかしない。
――…そうだ、向き合ってなかったのは私だったんだ…。
それがわかった時には視界がぼんやりとぼやけて、鼻の奥がツンと痛くなっていた。
「時間をかけて、ゆっくり…とはいかないでしょう?」
「は…い…っ」
「伝えたい時に伝えなければ言葉を持つ意味がなくなってしまうわ。
だから、少しだけ勇気を出して向き合ってみて?」
会ったばかりで説教じみた事を言うなんて嫌な人だと正直思っていた。
でも、その説教は決して私や伊織を批難している物じゃなくて…
これから先の未来を見据えてみなさいって言う有り難い言葉だったのかもしれない。
「萌さん…ほら、泣いてちゃ伊織君が帰ってきた時心配するわよ?」
ボロボロと落ちる涙は自分ではどうしようもない。
ただ両手で涙を拭いながら何度も何度も頷いて、また涙が落ちた。
ぼやける視界の端に、窓から見える赤み掛かった空を見ながら私は初めて、価値観の違いを実感していた。