「私が言いたいのはね…、

誰かのための自己犠牲はただの自己満足に過ぎない。

それだけなの。」


まっすぐに向けられた瞳を見る事はできなかった。
震えた掌を見つめて、ただその掌を強く握り締め俯く事しか今の私にはできなかった。



「貴女だけが悩む事はないわ。伊織君と一緒に少しずつ進んでいけば良いわ。

彼もそれを望むんじゃないかしら?」

「っ…それでも言えない事だってあります!」


やっと出てきた言葉は情けない位に震えた声で紡がれ、泣きたくなってしまう。

専務の事がもし伊織にばれたら…捨てられてしまうんじゃないかって怖くてたまらない。



「言いたいけど…嫌われる位なら言いたくない!」

「…萌さん…、貴女と伊織君はそんなに中途半端な付き合いをしているの?」


今までより数段厳しい声に肩を震わせた私の耳に、それなら…と小さくつぶやく声が入る。



「それなら、別れた方が良いわ。貴女のためではなく…伊織君のために。」

「そんな…っ」

「電話で貴女と伊織君の話を聞いたけど……彼は貴女にきちんと向き合ってるわ。もし、一緒にいたいなら貴女が伊織君に向き合わなきゃ…ね?」


厳しい言葉でも、道理はある。
だから何も返せずにいた。