「じゃあ明日空港で待ってるからな。」

「ん…おやすみ。」


あのあと、ショッピングモールでまた余計な物を買おうとする伊織を全力で止めて半ば無理矢理に自宅まで送ってもらった。

私が助手席から降りて、なぜか伊織まで運転席から降りる。
伊織は降りる必要は全くないはずなのに、私の目の前に立って口許に笑みを浮かべてる。



「…………なに?」


無言の圧力に堪えられずに一歩後ずさりながら聞いても無言の圧力はまだまだ継続中。



「ん。」

「…な、なに?」

「してくれねぇの?」


全くもって意味がわからない。
と言うよりはわかりたくない意味な気がしてならない。

ジーっと見られて居心地悪く目を逸らしても、顎を掬われて伊織の目とあわされる。



「っ…なに…」

「チューしてくれねぇの?」

「は?」


にんまりとした無駄に綺麗な顔をズイッと近付けられて条件反射で頬が熱くなる。



「ほら、早く。」

「い…嫌だし!」


チューって何ですか。
ネズミですか…ってそんな訳無いよね。
わかってはいる。わかってはいるけど、できれば意味がわからないままでいたい感じだ。



「してくれるまで動かねぇぞ?」


顔を近付けたまま厭らしく笑う伊織は完全なる確信犯だ。
私が自分からそういうのできないタイプなのをわかってて楽しんでる。

――…いい性格してるわ、コイツ…。

ちょっと…いや、かなり腹が立った私はにっこりと笑顔を見せて伊織の胸倉を掴む。