ふもとからはぜったい見えない山のてっぺんに、月夜にかがやく泉がありました。

 その泉には昔ケンカをしていた熊村、猿村、うさぎ村を見守るために月の女神が移り住んだという言い伝えがあり、
 毎年そこで『てっぺん祭り』が行われているのです。

 祭りではたくさんの屋台がならび、花火大会をするのですが、
 今年は村の代表で競われるマラソン大会をみんな楽しみにしているのです。

 一ヶ月前には各村の代表選手として熊村からは心の優しいプーマン、
 猿村からはいつも前向きなモンタ、
 うさぎ村からは負けん気の強いラビが選ばれました。

 どこにいっても、誰が金メダルをとるのかという話でもちきりのなか、
 プーマンは仲間の熊たちと楽しそうに練習をしています。
 モンタは気持ちよさそうにマイペースで走り続けています。
 そんななか、ラビは朝から晩までマジメな顔で階段を上ったり下ったり、
 あるときは山を二つも越える大変な練習を繰り返していました。

 ある日、森の中、プーマンがモンタに出会いました。
 「毎日走っているのかい?」
 「うん、毎日走ってるよ。ずっと前から続けてるんだ。僕は走るのが好きで、もっと速くなりたいんだよ」
 汗をふきながらモンタはほほえみました。
 日が暮れて、帰ろうと思ったプーマンの前にラビが走ってきました。
 「こんな遅くまで練習をしているのかい?」
 「ああ、毎日やってるよ。俺は勝つ、絶対に負けるわけにはいかないんだ」
 ラビはその場走りを続けながらクールに答え、すぐに走り去っていきました。


 大会の前日は雨が降っていました。
 プーマンは仲間と楽しそうにごちそうを食べています。
 モンタが部屋で運動をしながら窓の外をながめていると、バシャ!バシャ!バシャ!レインコートを着たラビが走り過ぎました。
 雨風はいっそう強くなり、川にかかるつり橋は大きくゆれているのでした。