『クルマとタバコとカンコーヒーと…』【リアル物語ケータイ小説版】

第69話

 親戚に断られたことは言いにくかった。

何も言わないで立候補までしてくれた友人達にそれを言うには時間がかかった。

変なプライドだったのか友達の気持ちに応えることが出来なくなってしまったことを告げるのが辛かったのか、簡単には言えなかった。

しかしその結論で昭太郎の何かが変わり始めていた。

吹っ切れたわけではなかったが、選択肢が無くなった昭太郎は気持ちの置き所を見つけたようだ。

吐き気に怯えることでなく、痛みに嘆くことでなく、『気持ちよく過ごす』というテーマを持ちながら生活をおくるように努めていた。

そこには無理をしない状態を継続し、心を安定させることを徹底するという生活だった。

「これができない。あれができない。」と考えることは辛すぎた。

そして「これができなくなる。あれができなくなる」ということはもっと辛かったのだ。


 これといって嘆かない生活は、期待をしないということだったかもしれない。

 しかし、昭太郎にはやらねばならないイベントが1つあった。

 期待もするし、祝福もしたい。

そう、妹の結婚式が間近に迫っていたのだ。


 昭太郎は病院の床屋で髪も切ったし、無精髭も剃った。

 その日のための新しいワイシャツと礼服は病室のタンスに掛けてあった。

 妹への祝福の言葉も考え、メモを繰り返し直していた。

 なにも変化のない生活の中にあるビッグイベント。

 そして・・・母親と妹を頼む、という親父の遺言。


 昭太郎は痩せた自分を鏡で見つめて考えていた。

 顔色が悪い場合にはファンデーションを塗った方がいいだろうとか、花嫁の兄貴があまり痩せているのも格好悪いだろうから、ワイシャツの中に白いトレーナーを着ようとか、少しでも力強くその場所にいたいと考えていた。

そんな無理をしないはずの生活の中に階段を上り下りする昭太郎がいた。

毎日、一歩一歩、階段を踏みしめていた・・・。