『クルマとタバコとカンコーヒーと…』【リアル物語ケータイ小説版】

第63話

 午前中の吐き気を引きずって、ゴロゴロとテレビを眺めていた。
閉められたカーテンが勢いよく開かれて「なに、昼間から閉じこもってるのよ!」とカーテンを全開にしたのは母親だった。

 その陰からひょっこりと姿を現したのは妹の麻由美。
「お兄ちゃん、どう?調子は」

「麻由美・・・、あぁ、なんとか」
 表情をつくり髪をかき上げる昭太郎に少し目を細める麻由美。
「ママから移植のこと聞いたよ」

(やっぱり言ったんだ・・・)

「それでね、信彦さんにも話したの」

(そうだよな、そりゃそうだよな・・)と何か祈るような感じで聞いていた。

「実は私、静岡に先週来たの、それで検査を・・・受けたの」

「えっ・・・」

・・・・・

「うん、でもダメだった。私の肝臓じゃ適合しないって、静脈が適合しないって、私じゃお兄ちゃん助けられないって・・・」
 泪を浮かべなから話す妹をみながら(これでいいんだ)と言い聞かせていた。

自らの意志を固められずにいた昭太郎はこの結果が運命なんだと思うようにしていた。
「ありがとう、でもいい旦那さんだな。よかったな。安心したよ」

落ち込む表情を見せる妹に
「大丈夫だよ、お兄ちゃんは大丈夫だよ、何とかなる、何とかなるよ」
 と繰り返し話した。
自分に言い聞かせるように言っていた。

 横で見守る母親に笑顔を投げかけた。

目を瞑る母親は泪を落とした。


 頭では妹からの移植はナシだと考えていたはずなのに、何処か落ち込んでいる昭太郎。
心の何処かで期待をしていたのだろうか?
いやどうなのだろう・・・。
わからない。
でも、この結果は運命なのだと思うことは簡単だった。



 【あの頃の俺は無気力だったが、ひとにはそれを話せなかった。
 無気力をひとに話すと、ひとは悲しい顔をするからだ
 それだけの理由で「大丈夫!」と言い続けていた・・・。】