『クルマとタバコとカンコーヒーと…』【リアル物語ケータイ小説版】

第62話

その週末。
大きな花束を抱えた綾乃に敏哉、おどけながらの勇介に光隆、貴明に真代。ニコモン達が大勢で病室に押し寄せた。

 CD、流行の本に預かってきた手紙。

いろんなモノをもってきた。

いつもより賑やかな病室に笑い声が飛び交う。

最近のみんなの話で盛り上がり、過去の話に花が咲く。

ボケる勇介をツッこむ光隆。

大きな笑い声が病室中に響いていた。

敏哉が持ってきた写真集をみんなで覗き込みながら、
CDを小さな音量でかけた。

未来の話はしなかった。

仮定の話はしなかった。

そして、暗黙の了解のように由紀の話がでることはなかった・・・。

「じゃあ、そろそろ」という光隆の言葉で目配せする仲間達。

「ゆっくり休めよ」という病人扱い。

 帰り際に聞こえた「メシどうする?」という囁き。

 昭太郎は(俺もお前らと一緒に帰るよ、俺だけ置いていくなよ、いつも一緒にいたじゃねぇーか)と心で叫び、歯を見せない笑顔で手を振った。

 病室の静けさが増していた。

いつもより賑やかだった分だけ増していた。

 歯を食いしばる昭太郎は我に返り苦笑いをした・・・・。



 【あの頃の俺は寂しかった。
元気に振る舞うだけ、寂しさが増していた。
 もう戻れない普通の生活に未練がいっぱいでどうしようもなかった。
 されたくはなかった病人扱いや「かわいそう」という視線にも慣れ始めていた。
病人でありながら楽しんだって所詮暇つぶしみたいなモノだと思っていた。
そう、卑屈な劣等感を感じていた・・・。】